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Lee-Byung-hun addicted

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第5話

コタツにみかん 第5話


「ママ~ただいま~。」僕は玄関で靴を脱ぎ捨てると慌ててリビングに飛び込んだ。
「おかえり、わたる。靴揃えた?手を洗ってうがいした?」
そんなことしている場合じゃない今日はビッグニュースを持ってきたんだから。
「ママ、いい。落ち着いて聞いて。あのね。今日花やしきにい・びょんほんがいたんだ」
「え?」
「だから今日遠足で行った花やしきでい・びょんほんがショーに出てて犬のぬいぐるみ着てて足がこうやってば~っと上に上がって・・ブレイクダンスも踊ってて。僕が一人でいたら一緒に乗り物に乗ってくれてお母さん大切にしろって・・・」
「ちょっと・・・わたる。具合悪い?熱あるんじゃない?今日寒かったからね。」
「ママ。ホントだって本当にい・びょんほんがいたんだよっ!」
「あら。そうだったの。ママも行けばよかった。ほら。パジャマに着替えて。あったかくして今日はもう寝よう。あれ・・体温計どこだっけ・・・」
ママは体温計を探しに部屋から出て行った。
(ママ・・本当にい・びょんほんに会って握手もしたのに・・こんなことならサインもらってくればよかった・・・)
テレビの横ではいつものようにあのい・びょんほんが微笑んでいた。
「そりゃそうだ・・僕だってこのい・びょんほんと一緒に乗り物に乗って握手したなんて
ちょっと信じられないんだから。ママには全然信じられないだろうな。」
僕はすっかり僕を病人だと思い込んでいるママに真実を伝えることを諦めた。
それにあの人には何だか優しそうな彼女もいたし・・・・。ママには知らせない方がいいだろう。ショックで寝込んじゃうかもしれない。
僕はパジャマに着替えながら思い出した。この洋服の匂い・・・い・びょんほんの匂いだ・・ママに教えてあげようか・・・でも、信じるわけがないか・・・。
僕は脱いだ服を洗面所の脱衣カゴに放り込んだ。



「しかし・・寒いね」
揺は大きなクリスマスツリーの前で飛び跳ねている。
「飛び跳ねるとあったかくなるの?」
ビョンホンはそう言って笑うと揺と一緒に飛び跳ね始めた。
「うん。結構あったまるよ。でも・・もっとあったまりたいな~」
揺はそう言ってビョンホンに体当たりした。
「もう・・揺ちゃんたらいやらしいなぁ・・」彼は嬉しそうにそういった。

「何だ・・・スープだったの?」ビョンホンがつまらなそうにつぶやく。
揺はカリブの海賊を眺めながら温かいスープをすすっている。
「いやだ。何だと思ったの?あいやあいやビョンホンssiいやらしい・・ほらあったまるでしょ。」
「まあ、確かに・・美味しいけど。量少ないよ。」
「さっき、ピザもハンバーガーも食べたじゃない・・じゃ、もう帰ろうか」
「嫌だ。最後までいる」
「そういうとこ、すっごい子供っぽいよね。」揺はニヤニヤと笑った。
「だって・・折角来たんだから最後まで楽しまないと」
ビョンホンはそういうと揺の腰に手を回した。
「もう、食べちゃったの?ちょっと・・誰かに見られてたらどうするのよ」
スープを持ったまま慌てて周りを伺う揺。
「暗いから顔なんかわからないよ」
目深にかぶったキャップの下から彼が悪戯っぽい眼差しで揺を見つめた。
そして不意に顔を近づけると揺にそっとキスをした。
「すごい大胆ね。まるで失うものが何もないかのようだわ。」
「おかげ様で。忠武路に背を向けられた男だからね。怖いものなんて何にもないよ。」
「またぁ・・もう・・・しょうがないな」
揺はそういうとスープを持ったまま背伸びをして彼にキスをした。
ゆっくりと温かくとろけるようなキス・・・
「揺・・・君は・・そうか失うものはないのか・・はじめから」
ビョンホンはそういうとゲラゲラと笑った。
「ちょっとそれどういう意味よ。人が優しくしてあげてればいい気になって・・」
揺はそういうと口を尖らせた。
「あ~でもなぁ~。ちょっと残念」
「何が?」
「ディズニーランドも楽しいけどさ・・・私・・花やしきの方が好きなんだよね。花やしきのあのジェットコースターに二人で乗りたかったんだ・・ビックリハウスも二人で入ったら楽しかっただろうな・・・」
そんなことを言う揺を眺めてビョンホンは優しく微笑んで言った。
「やっぱ・・・揺って変わってるよね。ここよりあそこがいいか・・・。そんな君だから俺は君が好きなんだろうな。きっと。・・・じゃ戻ろうよ。」
「どこに?」
「花やしき」
「だって開いてないよもう。」
「開いてなかったら・・・開ければいいさ」
ビョンホンはそういうと揺の手をしっかりと握って走り出した。
「ええぇ~~~」


二人が花やしきに着いたのは9時を回っていた。
意外にも園内の電気は煌々とついている。出口からは団体客か。大勢の人が次々に出てくる。
「どうなってるの?」揺はその光景を見てつぶやいた。
「ほら、開いてた」ビョンホンはニヤッと笑うと揺の手を引いて出口を逆走して園内に入った。
「あれ?昼間の・・」
声の方を見ると昼間揺が世話になった乗り物管理責任者の田所という男が立っていた。
「どうしたの?おねえちゃん、帰ったんじゃなかったの?」
「ええ。あ・・昼間はお世話になりました。あの・・ディズニーランドにあの後行ったんですけどつまらなくって・・どうしてもここのローラーコースターに乗りたくて戻ってきたんですけど・・乗せてもらえませんか?もうしばらく来られないんです。」
揺は自分でも驚くほど熱弁を振るっていた。
「そう・・いいよ。乗せてやるよ。デズニーランドより面白いって言われちゃ乗せないわけにいかないし・・・そっちのあんちゃん確か・・・ビョン様だろ?そりゃもうなかなか来れないだろうよ。その代わり・・ここにサインしてよ。」
彼はそういうとポケットからおもむろに手帳を出した。
「ほら、これがたけちゃんのサインだろ・・んでこれがタランティーノだろ・・」
自慢げに説明する。
「え?もしや、たけちゃんて・・」揺が恐る恐る訊ねる。
「え?浅草でたけちゃんって言ったら北野武だろうよ。あいつは酔っ払うとここに来て乗せろって暴れるんだからたちが悪くって仕方ねえよ・・」
田所が迷惑そうに言った。
ビョンホンは差し出された手帳を食い入るように見ている。
「タランティーノって・・・凄いワールドワイド」
呆然とする揺を尻目に田所はビョンホンにサインの解説をしている。
しきりに頷く彼。通じているのかゲラゲラと笑っている。
「ま、楽しそうだからいいか」
揺はそうつぶやくとしばらく上機嫌の彼の笑顔を見つめていた。
「揺、揺ったら、行くよ。」
ビョンホンはにっこりと笑って彼をぼぉ~っと見つめる揺の手をぎゅっと握った。


ビックリハウス・・ローラーコースター・・そして小さなメリーゴーランド。
もう従業員は田所しかいない。
乗れる乗り物は限られていたが二人にはそれで充分だった。
二人だけの時間を満喫する。
小さくて静かな貸切の遊園地。
ここにある乗り物は地味で小さいけれどどれもここにしかない味があって揺は大好きだった。
そして今日初めてここを訪れた彼も同じ思い。
居心地のいい空間、居心地のいい時間が流れる。
二人でよくお礼を言って花やしきを後にする。
「あ~もう最高に楽しかった~。ねえ、ビョンホンssi開いてなかったらどうするつもりだったの?」揺が訊ねた。
「ん?柵をよじ登って入るつもりだった」
「うそ。そんなことしたら韓流スター建築物不法侵入!ってニュースに出ちゃうわよ」
「そう?」
「そうよ。ドラマじゃないんだから・・つかまっちゃうわよ。」
「でも・・結果的にはドラマみたいな展開で笑っちゃったね。北野監督の話を聞けるとは思わなかったな・・・」
ビョンホンが嬉しそうに言った。
「ホント。タランティーノには笑ったわ。花やしき恐るべしね。そしてあなたもきっと伝説として語り継がれるわよ。イ・ビョンホンが犬の着ぐるみ来て一日中ショーに出演してたなんて・・・すごいニュースじゃない」
「ギャラもらったから事務所にばれるとまずいかな。」
「あ・・・どうしよう。じゃ・・食べちゃおうよ。これ」
揺は預かっていた給料袋を高々と上げた。
「俺のお金だよ・・」
「いいじゃない。あなたお金持ちなんだから。えっと何食べようか・・。焼肉?ステーキ?」
「ラーメン食いたい」ビョンホンが言った。
「え~ラーメン?安すぎるよ。」揺がふてくされていった。
「安くても美味しいものは美味しいの。さ、ラーメンラーメン」
二人は手を繋いでシャッターの閉まった仲見世どおりをスキップしながら歩いていた。







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